一昔前までは看護師の仕事は「3K」と呼ばれ「きつい」「汚い」「危険」を意味していた。しかし時が経った今では「9K」とまで呼ばれ3Kに加えて「規則が厳しい」「化粧ノリが悪い」「薬頼り」「婚期が遅い」「休暇が取れない」
そして最後に「給料が低い」が加わった。
昨今のコロナ禍では特にコロナ病棟で働く看護師の離職が世間でも話題になり、患者に最も近い存在である職種の人員不足は医療業界にとって痛恨の一撃となっている。
2021年11月〜2022年1月に全国の看護師や臨床検査技師総勢7724人を対象に行われたNHKの調査によると「現在の職場を辞めたいと思っている(全体の約70%)」の約30%が「賃金に不満」と応えている事が分かっている。
コロナ禍以前から看護師の賃金の低さが叫ばれていたが遂に現場の声は届いたのか、このコロナ禍を機に国は「看護職員処遇改善評価料の新設」を行った。
この記事では「看護職員処遇改善評価料とは」「対象となる看護師は」などを踏まえて今回の件をおさらいする。
もんがです。Twitter:@psyco3200、全くバズらない無駄を呟いてます。
まずは看護職員処遇改善評価料について触れる

看護職員処遇改善評価料は読んで字の如く「看護職員」の「処遇」を「改善するため」の「支援」のことである。
処遇改善の対象となる「看護職員」とは看護師、保健師、助産師、准看護師を指す。一方で「看護要員」は看護補助者も加わるので若干異なる。今回は前者である。
対象となる施設(病院)

結論から書くと12,000円の給料増は「全ての看護師が対象とはならない」である。令和4年2月から介護・障害福祉職員、看護職員、保育士・幼稚園教諭などを対象に行われた賃上げ政策と同様に条件を満たした看護職員のみが対象となる。
対象となる看護師について書く前に看護職員処遇改善評価料の施設基準について確認しておきたい。
- 救急医療管理加算の届出を行っており、救急搬送件数が200件以上(前々年度1年間の実績)であること
- 三次救急を担う医療機関
の①もしくは②のいずれかを満たす必要がある。
①救急医療管理加算の届出を行っており、救急搬送件数が200件以上であること
救急医療管理加算を説明すると長くなってしまうが、要するに「救急医療体制を整備し入院可能な態勢を確保している保険医療機関」が対象となっている。詳しくはこちらから確認していただきたい。
また、救急搬送件数についても前々年度の1年間の実績が考慮される為、同じく厚生局や厚労省のサイトを通して確認する。
注意していただきたいのはどちらか一方ではなく、両方の条件を満たす病院が対象である。
救急医療管理加算の届出を行っている
救急医療管理加算の届出を行っているを知るには各地厚生局のホームページを確認することで自病院が対象であるかを確認する必要がある。
- 北海道厚生局(https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/hokkaido/gyomu/gyomu/hoken_kikan/000252375.pdf)(※1)
- 東北厚生局(https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/tohoku/gyomu/gyomu/hoken_kikan/documents/201805koushin.html)(※2)
- 関東信越厚生局(https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/chousa/kijyun.html)(※3)
- 東海北陸厚生局(https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/tokaihokuriku/2209-07-03.pdf)(※4)
- 近畿厚生局(https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kinki/gyomu/gyomu/hoken_kikan/2022.9_tokutei1.pdf)(※4)
- 中国四国厚生局(https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/chugokushikoku/chousaka/000254532.pdf)(※5)
- 九州厚生局(https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kyushu/gyomu/gyomu/hoken_kikan/todokede_jiko/r4_09_koumoku_ika_c.pdf)(※4)
救急医療管理加算の届出(※5)を行っているかについては上の5つの厚生局ホームページで確認していただきたい。
※1:PDFの5ページまでが該当。救命救急入院料=救急医療管理加算
※2:「施設基準の出受理状況(届出項目別)」→〈5〉救命救急入院料/特定集中治療室管理料→従事する県のPDF→左上付近「救命救急入院料」を確認し自分の病院の有無を確認
※3:「施設基準の届出受理状況(届出項目別)」→「届出項目別2」→従事する都県のPDF→左上付近「救命救急入院料」を確認し自分の病院の有無を確認
※4:各ページの左上に府県名の記載があるので自分が従事する府県を探す→府県名の右下付近に「救命救急入院料」を確認し自分の病院の有無を確認
※5:厚生局によっては「救急医療管理加算」を「救命救急入院料」と表記する場合がある
救急搬送受入件数が200件以上である
救急搬送件数の対象期間は「賃金の改善を実施する期間を含む年度の前々年度1年間」での実績となる。その為2022年10月から始まる賃上げについては、2020年4月〜2021年3月(令和2年4月〜令和3年3月)までの救急搬送件数を確認する事が必要だ。
①上記URLから「全国データ(病院・有診療所)」をクリックしファイルデータをダウンロードしたのち「R02 報告結果_病院(全国).xlsx」を開く
②エクセルを開いたらまずは左下のシートが「施設票」になっている事を確認する

③「D6」の「都道府県」のフィルター(🔽)をクリック

④(すべて選択)のチェックを外す

⑤従事する都道府県のコードを選択(※1:下記参照)

⑥列(データの横項目)から「AC」を確認すると「救急車の受入件数」があるので、その行(縦)が救急搬送件数(単位:件)である。

※1:各都道府県コードは以下を参照

②三次救急を担う医療機関
三次救急とは最もレベルの高い救命救急医療を提供する病院が対象である。
すなわち救命救急センターや高度救命救急センター、小児救命救急センターを設置しており、二次救急と同じく24時間365日体制で患者を受け入れている。
三次救急を担う病院一覧については「一般社団法人 日本救急医学会」を確認していただきたい。
再掲:対象は①もしくは②に該当する病院
今回の対象は①もしくは②で働く看護師となる。つまり三次救急の病院ではなくとも、①に該当していれば対象となる。
ただし①の条件である「救急医療管理加算」と「救急搬送受入件数」はどちらも満たしておく必要があるので注意だ。
処遇改善となる対象の職種とは?

さて、ここまでで触れたように処遇改善の対象職種は上記①もしくは②に該当する「看護職員等(看護師、保健師、助産師、准看護師)」である。
というのは、実際は間違いである。
全てが間違いではなく、対象となる職種が看護職員だけではないということだ。以下の黄色いマーカー部分を確認していただきたい。

これが何を言っているのかというと「看護職員処遇改善評価料」による賃金の改善措置は病院の実績と判断に応じて「看護職員」以外でも対象となりうるということだ。
詳しく説明する。
賃上げ金額の算出方法
簡単に言えば、以下の計算方法によって算出された数字が病院単位に支援される金額であるという事だ。(実際には若干異なるが、この捉え方で良い)

これに基づき、看護職員処遇改善評価料の区分に従って届出を行う。(リンク先4ページ目の別表2を参照)
計算方法の分子と分母を見てみる
上の計算方法における分母は文字通り「入院患者総数」である。
一方で分母を見てほしい。「看護職員等(看護師、保健師、助産師、准看護師)の数」に12,000円と1.165をかけている。ここでここの見出しのトップにある黄色いマーカー部分を見ていただきたい。
要約すると「看護職員等の人数で考慮された支援金額を、看護師等以外の職種にも振り分けても良い」ということだ。
病院の実情にもよる分配方法だが
例えば本来であれば100万円を看護職員等の総数100人で分けるとなった場合、一人当たり1万円が加算される。
しかし看護職員等以外も賃金改善の対象となった病院の場合、看護職員等の総数100人+看護職員等以外の職員100人となれば、一人当たり貰える金額が5,000円へと減額される。
単純計算であるため詳細には異なるが、考え方としてはこのようなことである。
賃上げを行っても給料水準を低下させてはならない

令和4年度の診療報酬改定の概要 看護における処遇改善(厚生労働省保険医療課)には次のように記載がある。
「賃金の改善は基本給、手当、賞与等のうち対象とする賃金項目を特定した上で行うとともに、特定した賃金項目以外の賃金項目の水準を低下させてはならない。」
これはつまり、この支援金を受け取った事でその病院側が医療者に支払う給料はこれまで同様として、支援金額を差し引いた給料がこれまで以下になってはいけないという事である。
もっと分かりやすく説明すると、今まで貰っていた給料が25万円として今回支援金で1万円が追加となり26万円になったとする。
ここで病院側が「支援金で上がった分、私たちが払う給料は24万円として合計で25万円で変わりないからいいよね。」というのは行ってはいけないという事である。
2022年10月から開始予定と噂されていた「給料アップ」の可能性のまとめ

今回の看護師は12,000円の給料アップという噂の実態は分かっただろうか。算定開始のぎりぎりになりようやく明確になったルールを再確認する。
- 救急医療加算管理の届出を行っており、令和2年度の救急搬送受入件数が200件を超えている、もしくは、三次救急を担う病院が対象。
- 今回対象となる職種は基本的に上の条件を満たす病院で働く看護師、保健師、助産師、准看護師である。
- 病院の都合によっては理学療法士や作業療法士、コメディカルなど職員なども支援を受け取る対象となる。
- その場合は相対的に看護職員への支給は少なくなる可能性がある。
- コロナ罹患患者に関わったからといって看護師は必ずしとも対象とはならない。
- 通称:老人施設等で働く看護師は対象とならない。
- 「非常勤」「派遣」などのいわゆる常勤・正社員以外は対象外との記載はない為、病院の方針に寄る?
この仕組みの創設における疑問はいくつかある。「看護職員の収入アップを目的としているのに、収入アップの対象は看護職員以外も含まれるとなると差別化ができない仕組みではないか」「その場合、本来看護師が貰えたはずの12,000円は、他職種に分配されて実際に増える給料は12,000円に満たないのではないか」「対象となる看護職員が圧倒的に少数派であり、収入アップを実感できる看護師は相当少ないのではないか」
今後も日本看護協会を筆頭に看護師含む医療業界の賃金水準の向上に取り組んでいただきたい。
⚠️本文中は筆者の認識・見解で記載しております。間違い等ございましたらなんなりとTwitter:@psyco3200からDMにて、もしくはお問合せからご連絡ください。
参考:令和4年度診療報酬改定の概要 看護における処遇改善(厚生労働省保険医療課)、各厚生局ホームページ(本文中リンク先)
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